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2006年7月19日 (水)

岬の人

 去年のゴールデンウィークは外房に行っていた。

その一日気が向いて、ずっと前から行ってみようと思っていた小さな岬に出掛けた。快晴で暑い日であった。その岬を昔或る青年が、別荘地にしようと思って、足繁く通ったと言う話しを読んだことがある。結局は断念して、そのお陰で、今も美しい自然地形のまま、その岬は太平洋に臨んで、南房総国定公園の一部を成している。

その岬の付け根には小さな突き出しがありそれに二分されている小さな港がある。右側は漁港で左側はダイビングの基地のようになっている。港は周囲が小高い丘陵に囲まれて、ひっそりしている。誰かのために隠してあるような雰囲気が漂っている。景色が良く静かで自分は直ぐ好きになった。港の手前に有る駐車場に車を止めて、岸壁から海を覗きながら、釣り人の脇を抜けて港を一巡した。波の音が静かに聞こえ、空気が良く、水が綺麗で、益々好きになった。

そして今度は、岬巡りに出た。小さな旅館の脇を通り、狭く暗い凸凹道のトンネルを抜けると、今度は本当のその岬に入る。暫く息を切らして登ってゆくと見晴らしが利く分かれ道に出る。そこに「南房総国定公園」の石造りの案内板がある。そこでいつものように、デジカメで写真を撮っていると、初老の夫婦が通りかかった。服装は我々と同じく、地味な普段着だが、持ち物がハイキングコースに似合わない大きなカバンに鍋らしい物が見え、又別の半透明の大きな袋には衣類が入っているようだ。我々に笑顔を向けて、近づいて来て、その荷物を狭い道の横に無造作に置いた。

「撮りましょうか」普段の自分なら、「イヤー・・・」とか言って辞退することが多い。どうしても二人が写って居る写真が欲しければ、PCで切り貼りすれば済むことだし。しかしその時は素直に応じて、写真を撮って貰った。その笑顔に何か引き込まれてしまった。「ココをゆっくり押してください」自分たちの写真を撮って貰ってから、何か勢いで初老の夫婦の写真も撮った。

炎天下で数分話しをした。直ぐ近くに別荘が有る。近所に家は全くないし、この通りの所だから、夜は恐ろしいほど静かだ。冬の夜は満天の星が掴めるような感じだ。嵐の時は、風が舞って、木々が揺れ、不安になるほど騒々しい。そんな夜は波の音が轟々と聞こえる。でも公園の中で、景色が素晴らしく、不便だけど気に入っている。

夫妻は別荘で不要な物を、持ち帰る為に運んでいたようであった。未だ帰る時間にしても、日にしても早かったので、買い物ついでに車まで運んでいたのだろう。

先週、久しぶりに勝浦の朝市を見物してから、その岬散策に出掛けた。その日は、海から霧が盛んに陸側に流れてきて、視界が利かなかった。岬に入ってゆくと遠くが霞んで、高台からは、海面がぼんやり見える程度、数百メートル先は、全く白いばかり。斜面には百合が咲いていた。

急な坂道を登り切ると、一年少しばかり前に写真を撮って貰った分かれ道に出た。そこを南に下って行くと、赤い屋根の夫妻の家が見えてきた。夫妻は衣類やら布団やらを干している最中だった。垣根越しに声を掛けて門に立つと、こちらにとっては写真で見慣れた二人が居た。一年少し持っていた写真を一枚上げて、一言、二言話すと、夫妻もこちらを思い出してくれたようだ。また少しだけ話しをして、ハイキングコースに戻った。

自分はまた、将来あの岬に散策に行くだろう。縁があれば、その時また会えて、またお茶に誘ってくれれば今度はご馳走になるだろう。縁がなくてもう二度と会う事は無くとも、時々あの夫妻の事は思い出すに違いない。

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