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2007年2月13日 (火)

表札

ずっと昔の話。

東京に出て来て、4畳半に落ち着いた。木造2階建ての1階、自分の部屋は北西の角、北側に窓有り。ドアを開けると小さな土間、そのまま一段上がってドアを背にした小さな台所、その左側に畳4枚半の部屋、それに押し入れ。全部含めて6畳分。勉強して食事をして寝るには十分な広さ。お手洗い共同、4部屋で二つ、北側の角に洗濯が出来る流し。場所は私鉄沿線の各停だけが止まる駅、駅から歩いて10分、周りは小さなアパートだらけ。

誰も来るわけではないが、表札を掲げると、自分はここで暮らしているのだ、と言う主張がある気がした。大学ノートの裏表紙の真ん中を適当に切り抜いた。それに苗字を書いてドアの横に画鋲で留めた。暫くはこれで満足していた。その間に尋ねてきた人は一人も居なかったけれど。

本屋で栞を貰った。2枚貰った。本を読んでいる内に、突然この紙を表札にしたら、と言う考えが浮かんだ。早速苗字を書いた。2枚とも同じに書いて、綺麗な方をドアの横に貼った。紙が薄かったので糊で貼った。少し期待と違ったが、そのままにした。1枚は少し傾げてドアの内側に貼った。

ドアの内側に貼った千社札の様な裏表札を見て出掛けた。帰ったときは時々、表表札を見ていた。長い廊下が有るわけでもなく、1階にたった4部屋しかないから、位置関係で迷うことは全くないから、確認することも無いのだけれど。それでも気力が萎えて疲れが溜まっているときは、駅から部屋に着くまで自分の部屋に違う名前が掲げられていると言うちょっとした妄想があり、少し速く歩いてアパートに帰って表札を確認したことも有った。

その千社札のような表札も見慣れると、余りにも安っぽくて、自分が吹いて飛ぶような気がして来た。何か良いものは無いか。自分の代弁をするものだという気は有るものの表札にお金を支払う余裕は勿論無い。厚みが有るものが良い。適当な板が有れば良いのだが。何処かに板が無いか。暫く考えた。只の板、有った、蒲鉾の板。蒲鉾なんて東京に出て来てから食べたことは無かった。スーパーに向かった。一番安い蒲鉾で良さそうな板が付いているのを探した。掴んでは引っ繰り返して板を見た。良さそうなを見つけて買った。

蒲鉾は大事に食べた。板は綺麗に洗って乾かした。彫刻刀で苗字を浮き彫りした。黒い油絵の具でなぞった。掲げた。暫くはハエが集ったけれど、その内来なくなった。そのアパートから引越をするとき、名残惜しかったけれども、反って居たので捨てた。その後も表札は手作りである。立派な表札を掲げる日は来そうにないけれど、今は蒲鉾の板ではない。DIYで買った端材で作ったものだ。最初に表札を彫る時に使った彫刻刀セットは今でも勉強机の引き出しに有る。

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