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2007年3月30日 (金)

エビ掬い

自分が小学生の高学年の頃に父と一緒に行ったエビ掬いのことが、今でも時々思い出される。

多分、土曜日の午後、お父から声を掛けられて、出かける事になった。軽トラックに掬い網と放し網など道具を積んで家を出た。しばらくは町の幹線道路を走った。その後林の中に入って細い道を進んだ。道端には緑になりかけの草が少し生え始めていた。土は黒っぽく湿り気を含んでいた。道を急に曲がって少し行くと開けて目の前に沼が広がった。大体の見当は付いたが初めての場所であった。辺りには蕗の薹がいくつも出ていた。沼のほとりの林の際には雪が残っていた。お父は後で使えるな、と言って支度した。

沼の中に放し網を仕付けた。水かさが増えているので、普段は陸地の所だ。草の生え方で分かる。

お父は胴長を履いた。タオルで頬被りをした。長いゴム手袋をした。大きな叉手網のような掬い網を担いで沼にソロリソロリと入った。眼の前に構えて長い取手を押して段々遠ざかった。深さは臍のあたりぐらいのところが多い。時々ゴミ取り網に掛かった葦の枝などのゴミを振り投げている。暫くしたら岬を回って見えなくなった。

沼の上を渡る春風は冷たい。沼のほとりはジュクジュクしていた。土手を歩いて大きくて綺麗な蕗の薹を10個ほど取った。袋に入れて荷台に放り込んだ。助手席に戻って座った。弱い日差しが窓から一杯に入っている。車の中は暖かい。眠くなった。うつらうつらした。

程なく浅い夢を見た。せせらぎの側で何かしているような、その音が少し大きく成って眼が覚めた。お父が沼の流し網に掬った植物のクズ混じりのエビを放していた。少しずつ放しては選り分ける。車から降りて見える位置に立った。

放した瞬間に表面に居たエビは外側に向かって泳ぎ出す。手で流し網の中に流れを作ってやる。エビは上流に向かって泳ぐクズは沈み流される。繰り返し行う。掬ったエビをもっとクズを少なくなくするために、もう一つ仕付けた別の流し網に入れる。繰り返す。最後はエビだけに成る。エビを掬って網を張った木枠に薄くエビを撒く。薄茶色の半透明のエビが飛び跳ねる。その網木枠を何段も重ねて木箱に入れる。一番上の網木枠には雪をタップリ入れる。エビは丈夫だ。これで冷たく酸欠にも成らず元気である。

流し網の中に川エビが混じっていた。これは沼エビに比べると格段に大きい。長靴で近づき捕まえる。お父も見つけ次第こちらに寄越す。20匹以上あった。雪を入れた袋に入れた。袋の中で時々ビューンと跳ねる。夜ストーブで焼いて食べる。

道具を片付けて家路に就く。もうカグラカグラしている(夕暮れになる)。風は先ほどに増して冷たくなる。たくさん獲れて良かった。楽しかった。今日は自分の好きなエビのかき揚げかも知れない。お父はお酒を飲むとき、喜んで蕗の薹の天ぷらも食べるかも知れない。自分にとって当時はそれだけであった。お父は何も言わなかったけれど、楽しみばかりではなくお金も欲しかったのだ、自分たちの為に。

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