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2007年4月19日 (木)

小学生の蝉の脱け殻

小学生の頃、近くの公園の外れで木を粉砕している人たちが居た。普段は怖くて近づけなかったが、ある時意を決して近づき、指を指して丸太がほしいと言ったら、意外や意外、髭を生やした小父さんがニッコリしてどれがほしい、と聴いてくれた。自分は幹の白っぽい直径30センチぐらいで長さ50センチぐらいの丸太を指した。小父さんは軽く持ち上げて、自分の自転車に積んでくれた。重いから気を付けてゆっくり帰るんだよ、とも言ってくれた。

やっとの思いで家にたどり着き、その丸太を自分の部屋に持ち込んだ。勉強机の左側に板を敷いてその上に置いた。その前には窓が有りその下にはむき出しの壁板が有った。その板には二つの節穴が有った。左右は50センチぐらい離れていた。低い方は床から10センチぐらい、高い方は床から40センチぐらい。高い方の節穴に取っておいた木の枝を橋のように差し渡した。これで舞台は整った。

春先の外は未だ寒い日で有ったけれど、汗をかいた。額がテカテカ光った。満足感で一杯だった。

その夜は嬉しくて中々寝付かれなかった。布団の中でいろいろ想像した。想像はどんどん膨らんでゆく。思わず顔がほころんだ。

夏が来た。もうすぐ夏休みだ。自分には親しい友達はいないけれど、寂しいことなどは全くない。毎日一人で自由に過ごせる。遠くに行くわけでもないし、何かの行事に参加するわけでも無いけれど、毎日わくわくして過ごした。学校から帰ると、近くの公園から入って裏山に行った。毎日うろついて蝉の脱け殻を探す。夏休みが近づいて、1個、2個と取れるようになった。舞台にセットした。夏休みに入ってからは、10個、20個と取れるようになった。毎日舞台にセットした。

宿題は最初の一週間で終わりにした。課題は昆虫採集。トンボ、バッタ、甲虫、チョウ、などを底にコルクを張った菓子箱に入れた。図鑑で調べた名前と採集場所、年月日を昆虫採集注射セットのおまけに付いていた標本票を真似て作った。これで宿題はすべて終わり。

夏休みの中頃に自分だけの舞台が完成した。蝉の脱け殻は500個ぐらい使った。舞台にすべて計画通り配置した。壁板の下の穴からはい出してきた脱け殻は段々その数を増やして、敷いた板に下がり板を伝うに従って幅が広がりワサワサと“音”をたてながら巨大な塔に向かって行進する。すべて塔に群がり壁面を上り塔の上に殺到する。戦ったもの達は疲れて重い足を引きずりながら、一本の橋を渡って、上の節穴へと消えてゆく。ワサワサと蝉の脱け殻が行進する音が今でも聞こえてきそうだ。楽しかった小学校の夏休み。

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