雨のホームレス
10日ほど前の雨の土曜日、茂明は床屋に行った。いつも通り9時の開店を目指して家を出た。少し歩くと本通りに出る。そこから街の商店街が始まる。近隣では比較的名の通った道路が二つ交差している。そこから駅方面はアーケードが始まる。
そのアーケードの端に、初めて見るホームレスが居た。特に詳しいわけではないが、街は小さくいつも見る人は数人しか居ないので直ぐ分かった。茂明と同じぐらいの年頃であった。体は立派で背丈は茂明より高かった。白いレジ袋を4つ持っていた。
アーケードの端であちらこちらを見ながら、何となく少し落ち着きがない。何か約束でも有るような感じ。待ち合わせをして、時間が少し過ぎた、雨だし、どうしたかなあ、と思って、時間を潰す場所も無いし、近くにお茶を飲める所も無いし、しょうがない、多分来るであろう方向を時々見るような、そんな感じ。
アーケードに入って傘を畳んで駅方面へ。いつもの床屋へ。30年ぐらい通っている。お店に入って、少し待ってから茂明の番になった。いつも通りに調髪して貰って店を出た。雨が少し強くなっていた。同じビルの中にある100円ショップを覗いてから、朝来た道を戻った。
先ほど居たホームレスが未だ先ほどの様な感じで居た。
家に帰って奥さんに話した。
「可哀相だね、どうしたんだろうね、傘上げようか」
「何か食べるものは無いの」
「ご飯類はないんだよねえ」
「何かある」
「100円ショップの花林糖ならある、飲物と一緒に」
奥さんが直ぐ出掛けた。10分ほどで帰ると思ったが、20分ほど帰らなかった。もう居なかったと言う。暫く交差点の当たりを探したけれど居なかったという。
茂明がそこを通り過ぎてから直ぐ、商店会の見回りの人が交差点の近くの店の人から通報を受けて、追い出した後だった。言葉は丁寧だが、その人に店の前でウロウロしないように注意した。
雨の日のホームレスは、生きる勇気をちょっぴり貰えるチャンスを失い、茂明たちは、喜捨するチャンスを失った。ホームレスは雨の中を歩き去った。
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