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2008年5月14日 (水)

エンジのトレーナー

高校生の時、或る夕方学校から20Km位離れた田舎の観光地をフラフラ歩いていた。何かちょっと暗い気分だった。帰ろうと思って駅方面に向かっていた。狭い道路で自分を追い越した車がちょっと先で止まった。窓を開けて顔を出した。自分より10才ぐらい上と思われた。当時は結構なオジサンに見えた。奥さんらしい人が横に乗っていた。

「何処まで帰るんだ?」

「○○まで」

「そばを通るから、乗ってゆかないか」

一瞬躊躇した。危険を感じたからではなく、話し掛けられるのも何となく面倒だし、1人で列車に乗って、外の景色を見ながら何となく憂鬱な気分で居る方が良い気がした。思い直して乗せてもらった。

「何しに来たんだ」

「ちょっとフラフラと」

後は会話らしい会話は無かった。彼はそれ以上は何も聞かなかった。主要道路から外れて、集落の道路に入る時、道案内をしただけ。その人は奥さんとは時々小さな声で話をしていた。特段の内容ではなかった。こちらには話し掛けなかった。家から少し離れたところで降ろして貰い後は歩いて帰った。

それから1ヶ月ぐらい経ってから、県庁所在地に有る球場に行った。夏の甲子園野球大会の県予選の準々決勝の応援。自動販売機で買った飲物を飲みながら歩いていていると、その人と会った。全く驚いた。曖昧な笑みでお辞儀をした。

「元気でやっているか」

「はい」

「今日勝と良いがなあ」

「はい」

「俺も応援に来た」

それ以来何十年も全く会っていない。名前も知らない。当時の顔も全く記憶から消えた。彼も自分の顔は覚えていないだろう。

彼に会った時、自分は2回とも学校のエンジのトレーナーを着ていた。左胸には校章が印刷されている。大きく学校名が入っているわけではないけれど、学校の色のエンジ。

彼はあらぬ時間に寂しい観光地を歩いている後輩にちょっと手を差し伸べた。

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