駅前の蝉
自分が住んでいる街の駅前が再開発された、駅前にポツリと残された野原で、真夜中に老人達が、異様な熱気を帯びて「真夜中のゲートボール」をしている。
そこの野原は、土がはぐられて、幾らか有った樹木も、そこの地中に住んでいた蝉も全て根絶やしに成った。老人達の幾人かは木の精霊や蝉の鎮魂の為にその地でゲートボールをしている。
土がはぐられなかった所も全て舗装が成されて、その地中にいた蝉の幼虫も出口を失った、時季巡り地上に向かったが、そこには暗黒の壁が、彼の前に立ちはだかった。
駅前にはたった三本のメタセコイヤが残された。その狭い一画だけは、従前の如く、幾匹かの蝉が鳴いた。明りに照らされて、真夜中まで鳴く。
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