電車の樟脳(9)
数年前に2人は思い出しながら近辺を探索したことが有る。個々の建物は殆ど変わったように思えたが、街全体の感じは所々に昔を感じさせる物が残っていた。特に駅から少し離れると、細い路が入り組んで静かな街並みのままだった。そんな中にハッキリは分からなかったが、傾いだアパートが建って居たらしいところに、小さなマンションが建っていた。昔の気が未だそこらに漂っている気分がした。
電車の中や、衣類売り場の中で、樟脳や或る香水の匂いを嗅げば、何も言いはしないけれど、伊藤は不意にあの若い頃の自由で貧乏だったあのアパートの事どもを思い出す。
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