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2013年2月 4日 (月)

小笠原旅行記(10)

10.岬の老夫婦




1番大きな集落の有る母島の南部の沖港の側に民宿は有った。そこから数キロある北端に近い北港に行こうと思っていると言うと、同宿の3人組が仕事でその近辺まで行くと言うことで、車に便乗させて貰うことになった。親切な人達であった。その内の1人は、偶々自分と同県の出身でそれも親しみが持てたし、単純に信頼した。朝の約束をして、夕食後のお茶を終え、部屋に帰った。

普段から休みの日に十数キロの散歩をしていた。北港までの往復は全く心配していなかったが、当日は曇り空で、雨が降ってもおかしくない空だった。

当日かなりガタの来た、ちょっと破れた幌の四駆に便乗させて貰って北港の入り口まで送ってもらった。歩くのに訳は無いが、自動車に取って道は余り良くなかった。そこから北港に歩いていった。港とは名ばかりでフィヨルドのように岸が高い小さな入り江に小さな埠頭が有るばかり。人気は全く感じられなかった。水は素晴らしく綺麗だった。小波が打ち寄せ、滅多に感じない別世界に入り込んだような気持ちになった。SFに有るような太古の景色。その紺碧の海面に首長竜の群が獲物を追って、湾に現れても不思議な気がしないほど、色の濃い素晴らしい景色だった。

聞いていたとおり何年か前の台風で人家は全て壊れたと言っていたが、全くその通りで、まともな家は全くなかった。民宿の人の話に依ると、当時から住んでいた老夫婦が自力で家の一部を補修して未だに住んでいるとの事だった。よく観察したらそれかなあ、と思われる家が有り、見落としそうであったが確かに住んでいると言えば居そうであった。寂しいところにポツンと生活しているのを、想像すると胸が高鳴る。胸騒ぎもする。

準備をして釣り開始。カサゴ、ハタ系の魚が次々に釣れて面白かった。美しく澄んだ水の底にある岩や玉石が揺らいで見えて、魚の影など見えないのに、綺麗で元気な魚が次々に柔い竿を弓なりにする。暫くしたら雨がポツポツ降り出した。壊れた建物の屋根の下で雨宿りをした。ボンヤリ夢の中の様な景色を見ていたら、雨が少し強くなった。小止みになったら、持参の雨具を着て宿に向かおうと話していたら、車の音が聞こえてきた。朝乗せて貰った車。3人組も仕事を断念して宿へ帰るという。親切に迎えに来てくれた。

車内は少し寒かった。ちょっと挨拶をした後は誰も余り話をしなかった。

車の中で、自力で直したという家の板そのものの色が、妙に心に引っ掛かっていた。太古の景色の中で、風の音と、波の音を聞いて、俗世界から隔絶して住んでいる老夫婦、毎日何を語っているのだろうか。

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コメント

このシリーズも 面白いですね。
ここでだけで 読むのが もったいないくらいですpen
雑誌の連載か、単行本読んでるみたいですね。
wave小笠原の良さが伝わってきます。

投稿: 朝太郎 | 2013年2月 4日 (月) 15時05分

今回の旅行記は
朝太郎さんがおっしゃる様に小説を読んでる感じになりました。
小説とか文章で今後めしが食えるのではないですか!
若い時から、凄い距離の散歩してたんですね。
わたしなんか、羽田道の往復10k弱で疲労困憊して遭難の危険を感じましたよ(゚ー゚;sweat01

投稿: チョンプー | 2013年2月 4日 (月) 19時44分

朝太郎さん、こんばんはnight
pigxmaspenguinsnow

老後の生活費の為に買ってくれる人、探しています(笑)

朝太郎さんや少しの皆さんが、楽しんでくれれば、嬉しいです。
後、2回ぐらいは、考えてあります。

今日はcloudでしたが、散歩で、寒さは感じませんでした。

投稿: ハシビロコウ | 2013年2月 4日 (月) 19時47分

チョンプーさん、こんばんはnight

色々学んでいるチョンプーさんから誉められると嬉しいですcat
散歩シリーズ、shoe楽しみにしています、地井さんとは違った味が出ていますapple

歩くのは好きですが、多分moneybag貧乏の所為ではないかと疑っていますweep
dollar宝籤を期待していますsun

投稿: ハシビロコウ | 2013年2月 4日 (月) 20時03分

皆さんが仰る通りに、情景が浮かんできます。
何か静けさの中に独り占めの、景色が良いですね。
多分私ならそんな中では、長く生活は出来ないなと、思いながら読んでいました。
私も次回を楽しみにしています。

投稿: ヒマ トック | 2013年2月 5日 (火) 16時44分

ヒマトックさん、こんばんはnight

今まで見た深い印象に残っている景色の1つが、母島の北港ですeye原始の自然を感じました。

都市で、観劇、買い物などを楽しむ方や僻地で自給自足的な暮らしを好む方、ヒマラヤを見て、思索的な生活をする方など、色々あってバランスが取れている気がしますcat
好みは様々ですからねpenguin

投稿: ハシビロコウ | 2013年2月 5日 (火) 20時42分

>紺碧の海面に首長竜の群が獲物を追って、
>湾に現れても不思議な気がしないほど
私もそのような場所で釣りがしたいです。
もし魚が釣れなくても
1日中景色を眺めていたい。

投稿: メンカーム | 2013年2月 8日 (金) 23時40分

メンカームさん、こんばんはnight

本当に素晴らしい景色でした。お金が有ったら又行きたい場所の1つです。そこは地球上で最も青い場所の1つじゃないかと思います。行くだけで相当の時間とお金が掛かるので、暫くはあのままの気がします。

そこの老夫婦は、毎日あの景色を見て暮らしていたのでしょう。もう今は、人が住んでいた痕跡もその景色の中にはない気がします。

投稿: ハシビロコウ | 2013年2月11日 (月) 19時40分

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